藍染絣工房の4代目。重要無形文化財保持者会会員、日本伝統工芸会正会員。図案作成、括り、織りなどを担当。藍染を基礎から独学で学び、藍のグラデーションを生かした幾何学模様の絣で、独自の作品をつくり、販路の開拓を進めてきました。健さんとお話ししていると「おもしろいからやる」という言葉が頻繁に出てきます。同じ柄を何度もつくることを良しとせず、時に採算度外しであっても、常に新しいことに挑戦する。その姿からはものをつくることの喜びが伝わってきます。
藍染絣工房では5代目となる山村研介さんが藍染を担当しています。研介さんは、父である健さんから受け継いだ伝統的な方法を大切にしながら、独自の工夫を重ねて自分たちの求める藍を探求しています。日本には48色の藍色があるといわれますが、研介さんは100色の藍を染め分けることができます。
人類最古の染料ともいわれ、世界中で使われている藍。一口に藍といっても、その色合いは地域によって大きく異なります。かつて、藍染絣工房のある筑後地方では藍の栽培が盛んに行われていました。現在、藍の栽培はほとんど行われていませんが、藍染絣工房では筑後地方だからこそ生み出せる色合いを大切にしています。
世界的にインディゴピュアといわれる化学染料を使うことが一般的になっていますが、藍染絣工房では徳島産の藍を蒅(すくも)と呼ばれる状態で仕入れています。徳島の吉野川とともに日本の三大暴れ川に数えられ、頻繁に氾濫する筑後川が肥沃な土壌を運んでいたため、筑後地方でもかつては藍の生産が盛んに行われていました。近隣で藍の栽培がほとんど行われなくなった今でも、藍染絣工房では絣づくりには使っていませんが、自ら藍を栽培し、原料への理解を深めています。
藍を発酵させるとき、染めた糸や布を洗うとき、織り上げた布がこれ以上縮まないように洗うとき。天然染料を使った染色は大量の水を必要とします。古くから、質的にも量的にも水に恵まれていることが、この地域の絣づくりを支えてきました。藍染絣工房では、耳納山系の鉄分の少ない地下水を使うことで美しい藍色をつくりあげています。地下水は季節を問わず一定の温度に保たれているので、夏は冷たく冬は温かく、職人にとっても仕事をしやすいのです。
藍に含まれる色素はそのままでは水に溶けないため、微生物の働きで発酵を促し、染料を染められる状態にします。これが「藍は生き物である」といわれる所以です。ハイドロサルファイトなどの還元剤が使われることも多い中、藍染絣工房では地元のクヌギなどの木材を燃やしてつくる木灰を地下水に溶かし、採れた灰汁に小麦ふすまや有明海の貝灰などを加えて発酵を促す昔ながらのやり方を続けています。冬場は近隣で採れた櫨(はぜ)の絞りかすを燃料に火を炊くことで甕を温めて、甕の温度を一定に保っています。
茶色い藍液は、空気に触れ酸化することで藍色になります。その様子はまさに魔法がかかったかのよう。藍染は長く液に浸すと濃い色になるわけではありません。そのため、糸や布を染める際は、藍液に浸したては絞り、空気に触れさせる工程を何度も繰り返します。藍染絣工房は薄い色の藍液で何度も染めることで、色落ちしにくい藍色に染め上げます。濃い色の藍液だけで染めた時との違いは完成時はほとんどわかりません。しかし、藍染絣工房の絣は使っているうちに藍がますます鮮やかになってくるのが特徴的です。
久留米絣は、福岡県南部の筑後地方で200年ほど前から織られている平織の綿織物です。絣とは、糸を部分的に括り、染め分けることで柄を作り出す技法のことで、東南アジア・中南米・中央アジアなど世界中に存在します。かつては広島・岡山の備後絣、愛媛の伊予絣、そして福岡の久留米絣が日本の三大絣産地とされていました。しかし、備後絣は帆布やデニム、伊予絣はタオルなどへと移行していき、今でも産地として残っているのは久留米絣だけとなっています。
久留米絣の制作プロセスは30工程におよび、約3ヶ月かけて1枚の布が完成します。ここでは、主な工程を抜粋してご紹介します。
01
健さんが図案づくりを担当しています。伝統的な文様をベースにアレンジを加えることで、無限のパターンを生み出していきます。大柄の幾何学模様はインテリアにも使いやすいモダンな印象です。
02
絣というテキスタイルにもっとも特徴的な工程です。図案にもとづき、藍染しない部分を別の糸で括り防染します。藍染絣工房では、機械ではできない複雑な箇所は、健さんが一つ一つ手で括ります。
03
糸を藍液に浸しては、酸化させるために床に叩きつけることを繰り返す作業です。研介さんは染める時の動きがとても丁寧で、激しい動きにも関わらず工房にほとんど藍液が飛散していません。
04
経糸と緯糸両方を括った経緯絣を得意とする藍染絣工房では、目視で経糸と緯糸の柄を合わせながら一段一段時間をかけて織り上げていきます。動力織機では再現できない精緻な柄も織り上げます。
藍染絣工房の5代目。主に染めを担当。父である健さんから受け継いだ方法を大切にしながらも、独自の工夫を重ねて、研介さんならではの藍色を生み出しています。子供のころから川魚や昆虫など身の回りの生き物を観察するのが好きだったという研介さん。時に自分自身の舌で確かめながら、日々藍の状態を観察し、繊細な調整をしていく様は、まさに藍と対話しているかのようです。その土地その土地の藍の美しさがあるなかで、自分が筑後地方で染める藍とはなにか。そのことに向き合って、自身の染色を探求しています。
藍染絣工房の4代目。重要無形文化財保持者会会員、日本伝統工芸会正会員。図案作成、括り、織りなどを担当。藍染を基礎から独学で学び、藍のグラデーションを生かした幾何学模様の絣で、独自の作品をつくり、販路の開拓を進めてきました。健さんとお話ししていると「おもしろいからやる」という言葉が頻繁に出てきます。同じ柄を何度もつくることを良しとせず、時に採算度外しであっても、常に新しいことに挑戦する。その姿からはものをつくることの喜びが伝わってきます。
久留米絣の藍染絣工房で藍のアートピースを作る(2時間)
藍染絣工房の工房や藍畑を見学したのち、布または和紙を藍で染めてアート作品を制作します。藍の色それ自体を楽しんでもらうプログラムです。
Craft Inn 手 [té]は、福岡県八女市にある九州の手仕事を体感する宿です。3室あるお部屋のひとつである藍の部屋には、山村研介さんが大胆に染め上げた大きな木のテーブルや、久留米絣のタペストリー、座布団やクッションなど、藍染絣工房の藍の世界が広がります。